大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成6年(オ)2142号 判決

北海道河東郡音更町新通二十丁目三番地

上告人

よつ葉乳業株式会社

右代表者代表取締役

牧野靖平

右訴訟代理人弁護士

山本公定

武真琴

京都市伏見区深草大亀谷金森出雲町一番地の五二

被上告人

株式会社よつば

右代表者代表取締役

野口八郎

右当事者間の大阪高等裁判所平成五年(ネ)第一五五九号営業表示使用禁止等請求事件について、同裁判所が平成六年六月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山本公定、同武真琴の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一)

(平成六年(オ)第二一四二号 上告人 よつ葉乳業株式会社)

上告代理人山本公定、同武真琴の上告理由

第一、原判決は本件営業表示使用禁止等請求事件について上告人が被上告人の商品及び営業表示に関する不正競争行為ならびに商品表示に関する不正競走行為について、その差止めを求めたのに対し、いずれも不正競走行為の存在を否定したのであるが、この判断は法令の違背があり、それが判決に影響を及ぼしていることが明らかであるから破毀せられるべきである。

一、類似性の判断について

1.原判決は上告人の商号・営業表示・商品表示と、被上告人の商品営業表示・商品表示との類似性について特別に判断することなく、いきなり混同のおそれの有無について判断しているが、類似性について明確な判断をすることが、混同のおそれの有無の判断に不可欠の前提となる。

原判決はその段階を省略しているために、原審 は判断を誤ったものといわざるを得ない。

2.商品表示・営業表示の類否

判例は商品表示・営業表示の類否の判断について、

「取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否か」

を基準とすべきとする。(最高裁判所判例昭和五八・一〇・七民集三七巻八号一〇八二頁、昭和五九・五・二九民集三八巻七号九二〇頁)

原審においては、このような趣旨の商品表示・営業表示の類否の判断をなされていない。

3.上告人の商品表示と被上告人の商品表示の類否についての判断は対比する二つの表示の外観、称呼、観念が取引者(需要者)に与える印象、記憶、連想などを全体的に考慮すべきであるところ、原判決は専ら表記方法にのみ注目し、そのため判断を誤っている。

4.要部観察

原判決によれば、上告人の「よつ葉」という商品名と被上告人の「花よつば」という商品表示は「その表示方法で明らかに異なるものがいる。」というのであるが、被上告人の「花よつば」という商品表示は「花」と「よつば」という二つの普通名詞を組合わせた造語であり、特別の意味のある語でないところから、その要部として意味のある単語である「花」と「よつば」を認めることができる。

而して「よつ葉」と要部である「よつば」を対比すると、原判決によれば表記方法が明らかに異なっているというのであるが、その称呼はいずれも「ヨツバ」であり、完全に同じである。

また、その観念はいずれも「植物の四枚の葉」を意味するものである。逆に「植物の四枚の葉」を意味する「ヨツバ」を表記するとすれば「よつ葉」も「よつば」も両方があり得て、意味においても発音においても全く差異がない。

したがって、両者は完全に類似しているというべきである。

5.全体的観察

原判決によれば、被上告人の商品中には「四葉謹製」との表示も付され、また「株式会社よつば」という表示も商品に付されているというのであるが、それに「花よつば」という商品表示を加えて全体的に観察すると、「よつば」という標章が強い印象を与える。

それに対し、上告人の「よつ葉」という商品表示「よつ葉乳業株式会社」という商品表示ないし営業表示からは、全体としてみると「よつ葉」という標章が強い印象を与える。

今全体的にみれば「花よつば」と「よつ葉」は商品表示として全く類似しているというべきである。

6.営業表示の類否の判断について

前記の商品表示の類否と同様被上告人の商号「株式会社よつば」と上告人の営業表示についても、商品表示の場合と全く同じことがいえる。

原判決は「表記態様の相違」という表現を持出して類似性をも否認しているが、類似性の判断は前記のとおり全体的に考慮すべきであり、原判決は部分的な表記上の相違点についてのみ着目して判断を誤っているのである。

二、混同のおそれについて

上告人の商品表示・営業表示と被上告人の商品表示・営業表示が類似のものであることは前記のとおりである。

問題は、それがために両者に混同のおそれがあるかどうかである。

本件において考察すべき混同としては、購買者が上告人の商品を買おうとしたが、被上告人の商品であった(狭義の混同)とか、被上告人の商品を上告人のグループの商品と考えて購入する(広義の混同)おそれがないかということである。

1.競業関係

混同のおそれの有無を判定するのに重要な指標は競争関係の有無である。

上告人と被上告人の間に競業関係が存在するか考察すると、明らかに競業関係が存在する。

イ.上告人も被上告人も取扱う商品は食品である。食品の製造・販売である。したがって、当然競業関係にあるといえる。

ロ.しかも、上告人は牛乳製造品を主体とする食品を製造販売しているのに対し、被上告人は牛乳・乳製品を原材料としている洋菓子類を主体にしている。

ハ.上告人の販売品目中にはゼリー等の菓子を含み、被上告人の販売品目も菓子が中心になっている。

したがって、上告人と被上告人は明らかに競合関係にあるといえる。

ニ.それがために被上告人代表者は開業するに当って上告人のところに挨拶に来「よつば」という商号の使用の許諾をもとめに来ているのである。

2.上告人と被上告人の営業品目が競業関係にあり、しかも商品表示が前記のとおり類似性が強いものである以上、上告人と被上告人間で混同のおそれは強いものといわなければならない。

換言すれば、上告人の商品を求めようとして、被上告人の商品を求めて了ったり、上告人のグループの製造販売している商品だとして、被上告人の商品を求める可能性が十分ありうるのである。

3.具体的混同のおそれ

原判決も認定するように上告人の製造・販売する周辺の商品には菓子であるゼリーなどのデザート類が存在し(原判決一一頁「3の項)、これらデザート類と被上告人のシュークリーム、ケーキなど洋菓子(第一審判結一一枚目「2」の項)の製造販売とは、消費者からみれば近接類似する業種であり、また被上告人の商品の洋菓子には原材料として通常バターや生クリーム等の乳製品が使用されており、上告人の製造・販売する乳製品と被上告人の製造・販売する洋菓子とは関連性のある商品であると言わなければならない。

しかして、原判決によれば、被上告人の商号が「株式会社よつばであることからすると和菓子以外の被上告人が製造・販売する商品に右の商号が付されて商品を表示するものと推測されるというのであるから、上告人の「よつ葉」の標章と被上告人の「株式会社よつば」の標章を対比すれば、両者とも観念において四枚の葉を意味し、称呼においても「よつば」と呼び同一であるのに対し外観としての表記の違いは「葉」と「ば」の漢字と平仮名の一文字だけであり、全体としては「よつ葉」と「よつば」の標章が類似していると考えることが経験則に合致するものである。

しかるとき、右上告人と被上告人の業種の類似関連性に照らせば被上告人の「株式会社よつば」の標章は上告人の「よつ葉」の商品表示の標章と類似し混同の虞れがあるものと言わなければならない。

然るに原判決は、上告人の商品表示である「よつ葉」と被上告人の商品表示である「株式会社よつば」の表記方法が、上告人は平仮名と漢字であるのに対し、被上告人は全文字が平仮名であることの一事を以て両者は混同の虞れはないと判示するものであり、右は改正前の不正競争防止法一条二号、一条一号の法令の適用を誤り、かつ理由不備、経験則違背の違法がある。

第二、原判決には以下の通りの判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用の誤り、理由不備、経験則違背があり破棄されるべきものである。

原判決によれば被上告人の「花よつば」の標章は「花」という漢字と「よつば」という平仮名を組み合わせたもので、その両方ともが普通名詞であり、この二つを分解して個々にみるときは、特徴となる点を認めることができないので、全体としての「花よつば」が要部となり、更に同一の「よつば」の称呼部分は普通名詞としての称呼なので類似を検討する際には、その同一性は無視すべきであるとする。

しかしながら原判決の右論旨には飛躍がある。

すなわち「花よつば」の「花」と「よつば」の両方ともがいずれも商品の普通名詞ではなく、この二つを個々にみとるき、特徴となる点を認めることができないのであれば却って「花」も「よつば」も、ともに要部と見ることこそ経験則に合致するものといわなければならない。

葢し「花よつば」の標章は全体としてひとつの観念を導くことはないので、「花」と「よつば」の二つは不可欠一体のものではなく(現に原判決も組み合わせたものとして、これを分解して観察している)これを個々に分解し得るものである。

また同一の称呼部分が商品の普通名詞でないにも拘らず、普通名詞であるということを以て称呼の類似を検討する際は、その同一性を無視すべきものであるならば、普通名詞によって構成される登録商標はそれに他の普通名詞を付加した商標とは称呼において常に類似することはあり得ないという帰結をもたらすものであって、それが不当であることは言うまでもない。

以上のとおり原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな商標法第三七条1号、第三六条一項の法令の解釈、適用を誤り、理由不備、経験則違背の違法があり、破棄されるべきものである。

第三、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用の誤り、理由不備、経験則違背があり、破棄されるべきものである。

原判決によつても上告人が原告商標権(第一審判決四枚目裏の「5(一)」の項)を有していることは争いがなく、また被上告人の商品には「四葉謹製」との表示が付されていることは明らかである。

しかして、被上告人の右の表示は被上告人の商号(株式会社よつば)とは異なり、商品の包装に付されている表示であるから商標に外ならない。

ところでこの両者の類似判断にあたっては、不可分一体の商標といえども全体的に観察した場合において、その中で一定の部分が特に注意を引きやすく、その部分が存在することによって始めてその商標の識別機能が認められるときは、全体観察と並行して商標を機能的に観察し、要部を抽出して二つの商標を対比することにより類似を判断することが、適切なる全体観察の結論を引き出すための手段として必要であるとされる。(網野誠「商標」(新版)三四五頁)

しかるとき「四葉謹製」の表示が不可分一体のものであるとしても「謹製」の表示部分は謹んで製造すること、またはその製品と解され、出所表示機能や自他識別機能を有しないことは明白であり、これを見る者には「四葉」の表示部分のみが要部と言わなければならない。

しかして原告商標権は観念として四枚の葉を意味し、「四葉」と同一であり、また両者は称呼も同一である。

そうとすれば、原告商標権に被上告人の商品に付されている「四葉謹製」の表示は類似しているものといわなければならない。

しかるに原判決が「四葉謹製」の表示(第一審判決別紙被告営業表示目録のC)はその観念からすると「四葉」という業者が謹んで製造という意味であり、「四葉」が商品名というようには観念されないので、本件商標権と観念が類似するものでないことは明らかであるとし、類似を認めないことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな商標法第三七条1号、第三六条一項の法令の解釈、適用を誤り、経験則違背、理由不備があり、破棄されるべきものである。

以上

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